喜びの暗さ

貴方は心地よい闇に堕ちた。
目を閉じると脈打つ鼓動を感じる。
赤い名刺に刷り込まれていた致死性の毒を、
青い名刺に塗り込まれた抗生剤で完全に中和した。
そして貴方の手の中には
特別な金を薄く伸ばして作った
価値ある黄色の名刺が残った。
貴方のやった行動は完全に正しい。
これからもその悪運が続くことを祈っている。
死が、貴方を穿(うが)つまで。

Q.貴方は記憶にある探し人に逢えましたか?

はい

然しながら、
今宵一番の強運は探し人に出遭えたことだろう。
奇妙な縁で結ばれた相手と、
巧妙に情報交換をしたが故に、
貴方はこの狡猾で卑劣な罠から
生き残る術(すべ)を身に付けたのだ。
相手が貴方をどう思おうと、
貴方が相手をどう利用しようと、
そんなことは関係無い。
正義も悪も悦びも哀しみも、
毒も薬も財産までも、
あらゆる物を呑み込んで
貴方は今此処に立っている。
その醜く悍(おぞ)ましいまでの貪欲さは、
コォルタァルのように真っ黒で
重く粘り気のある呪いとなって、
これからも貴方の脳髄と臓腑を、
少しずつ、内側から暗く黒く闇に染め、
溶かし続けていくに違いない。

貴方はこの選定で成功し、
探し人にも出逢えました。
貴方が望むならその人物に
もう一度会いに行きましょう。
生きていれば善し、
亡くなっていたら……それもまた善し。
貴方の名刺コレクションに
青と黄色が増えるだけですから。

「へぇ…?うまくやるもんだねぇ」

「八方美人は嫌いじゃないわ」

「コミュ力あるマンじゃん!」

いいえ

貴方の足元には
二つの骸が無残な姿で転がっている。
口元から血塗れの泡を吹き、
人間の舌はこんなに伸びるのかと
感心するほどだらしない顔で死んでいて、
陰惨と言うより寧ろ滑稽な印象すら受ける。
貴方はその二人に見覚えがあった。
どういう縁かは知らないが、
会場の隅の方で
滂沱の涙を流して固く抱擁を交わし、
「又会えて嬉しい」と再会を喜んでいた二人だった。
そして互いの名刺を交換し合ったが故に、死んでいた。
……貴方は不幸にも探し人には出逢えなかったが、
もし遭遇していたら
この二人と全く同じ運命を辿っていたかもしれない。
むしろ出逢えなかったことこそが、
今宵一番の僥倖だったと
貴方は胸を撫で降ろすのだった。

貴方はこの選定で成功しました。
探し人には出会えませんでしたが、
寧ろ幸運だったと思うことにしましょう。
探し人と義理で余計な名刺交換をしていたら、
この危うい均衡が崩れて、
運命が変わっていたかもしれないのですから。

「へぇ…?うまくやるもんだねぇ」

「八方美人は嫌いじゃないわ」

「コミュ力あるマンじゃん!」

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