追憶の橙

自然界を見るがいい。
赤は警告色、黄色は警戒色だ。
動物たちはそうやって色で判断して
自分の身を守っているのだ。
…貴方は本能が危険を告げるのを無視して、
己の私利私欲のために赤と黄色の名刺を集めた。
黄色の名刺には金が練り込んであったが、
赤には毒が含まれていたのだ。
貴方の視界が歪んでゆく。
セピアに似たオレンジの走馬燈が
酸いも甘いも知った貴方の記憶の波を駆け巡る…

Q.貴方は記憶にある探し人に逢えましたか?

はい

ある種の毒蛙は
赤と黄色の禍々しい外見をしている。
蛇に呑み込まれたあと、
その腹の中に自分の毒を撒き散らして暴れ、
「もう二度とこの色の蛙を食べるものか」と
蛇に思わせるのだと言う。
毒の蛙は死して尚、仲間の為に尽くしたのである。
貴方は今、身体中のあらゆる穴という穴から
赤い血と黄色い体液を撒き散らして地に伏している。
薄れ行く意識の中で、
どこか上の方から、貴方の名前を呼ぶ声が聞こえる。
それは貴方が探し求めて、
今宵この会場でやっと出逢えたあの人の声だった。
貴方は腹の底、丹田に最後の力を込め、
誰にも聞こえない、誰の耳にも届かない
声なき声を搾り出した。
この死に様を見よ。
赤と黄色に塗(まみ)れた醜い自分の身体を見よ。
赤と黄色は危険の印だ。
私の死を教訓にして、
せめて貴方だけは生き残って欲しい
ーーそして願うならば、
ここで力尽きた私のことを
時々で良いから思い出して欲しい。
…しかし、その願いも空しく、
探し人は貴方の名前を大きな声で呼びながら、
貴方の身体を抱き起こすのだった。
そう…毒の血で汚れた、貴方の身体を。

貴方はこの選定で死亡しました。
しかしきっと貴方の生き様を
ファミリアのボスは評価することでしょう。
そして貴方の探し人もまた、
同じ評価を受けるでしょう。

「アハハ!最っ高に馬鹿だ!組に入れたかったよ!」

「来世でお会いしましょう、お馬鹿さん♪」

「あらら。でもこういう生き方の人大好き!!」

いいえ

どこかで誰かの声がする。
あれは貴方の名を呼んでいるのだろうか。
身体中の穴という穴から血と体液を撒き散らし、
赤と黄色と欲望で塗(まみ)れた
貴方の身体を揺すって抱き起す者が1人いる。
貴方は必死で目を開けようとするが、
1ミリも目が開かない。
その人は言う。何かを叫ぶ。
その言葉は貴方が探していた物と
完璧に合致していた。
そうか、ならば貴方が私の探し人だったのか…
助けてやる、と言われている気がする。
助けられるものか、と貴方は思う。
奇跡が起きる。動かない筈の右腕が、
渾身の力を込めて、その人物を突き飛ばす。
来るな。離れろ。自分はもう駄目だ。
しかし最後に探し人に出逢えた。
さようなら、少し遅かったよ。
貴方の手から、何という偶然か、
黄色い名刺だけがバラバラと落ちて、
目の前で尻餅をついている人物の
足元に散らばった。
まるで宝石のように煌めきながら…

貴方はこの選定で死亡しました。
しかしきっと貴方の生き様を
ファミリアのボスは評価することでしょう。
そして、貴方を命懸けで
救おうとした人物もまた、
命懸けで救ってくれた貴方に
深く感謝をすることでしょう。

「アハハ!最っ高に馬鹿だ!組に入れたかったよ!」

「来世でお会いしましょう、お馬鹿さん♪」

「あらら。でもこういう生き方の人大好き!!」

Tweet